高齢者介護、障害福祉、医療。
日本には、それぞれの分野を支えるさまざまな制度があります。しかし、実際に地域で生活する人の暮らしは、「介護」「障害」「医療」と明確に分けられるものではありません。
高齢でありながら障害福祉による支援を必要とする方、医療的ケアを必要とする方、介護と訪問看護の双方を必要とする方など、一人ひとり必要とする支援は異なります。
そこで注目したいのが、介護・訪問看護・障害福祉などを横断的に考え、入居者の暮らしを中心として必要なサービスを設計する「共生型住宅型有料老人ホーム」という考え方です。
これは単に「高齢者と障害のある方が一緒に暮らす施設」という意味ではありません。
制度に人を合わせるのではなく、人の状態や暮らしに合わせて、必要な制度・サービスを適正に組み合わせる住まいを目指す考え方です。
共生型住宅型有料老人ホームが必要とされる背景
従来の福祉サービスは、介護保険、障害福祉、医療保険など、それぞれの制度に基づいて発展してきました。
一方で、実際の生活では複数の支援が必要になることがあります。
例えば、日常生活では介護サービスが必要でも、健康管理や医療処置では訪問看護が必要になる場合があります。また、本人の状態や制度上の要件によっては、障害福祉サービスによる支援が必要になることもあります。
大切なのは、最初から利用する制度を決めることではありません。
「この人が地域で安心して生活するためには、どのような支援が必要なのか」
という視点から考えることです。
必要な支援を整理し、そのうえで利用可能な制度やサービスを検討する。この順番が、共生型の住まいづくりでは重要になります。
「満床」を目指すだけでは住宅型有料老人ホーム経営は変わらない
住宅型有料老人ホームの経営では、「入居率」が重要な経営指標として扱われています。
もちろん空室を減らすことは重要です。
しかし、満床にすることと、施設の経営価値を最大化することは同じではありません。
重要になるのが、施設全体の売上だけではなく、
「1室から、適切なサービス提供によって、どれだけの価値が生まれているか」
という視点です。
例えば19床の住宅型有料老人ホームでも、月商600万円の場合、単純計算では1室あたり約32万円です。
一方、19床で月商1,600万円なら、1室あたり約84万円になります。
同じ19床でありながら、大きな違いが生まれます。
では、この差はどこから生まれるのでしょうか。
「月額利用料」と「1室あたり総事業売上」は違う
ここで注意したいのが、入居者が支払う月額利用料と、1室を起点として生まれる総事業売上は別のものだという点です。
例えば、月額利用料が25万円だからといって、利用料金を50万円、80万円へ引き上げればよいという話ではありません。
共生型住宅型有料老人ホームで考えるのは、
居住
+
介護
+
訪問看護
+
障害福祉
+
その他の必要なサービス
という施設・関連事業全体の構造です。
入居者一人ひとりの身体状況、生活状況、医療ニーズなどを適切にアセスメントし、必要なサービスを設計します。
つまり、
「部屋を高く売る」のではなく、「1室から生まれる事業価値を高める」
という考え方です。
介護・訪問看護・障害福祉を「組み合わせ」で考える
共生型住宅型有料老人ホームの特徴は、特定の制度だけで施設運営を考えないことにあります。
例えば、ある入居者には介護を中心とした支援が適しているかもしれません。
別の入居者には、介護に加えて訪問看護が必要かもしれません。
さらに別のケースでは、本人の状態や制度上の適用要件に応じて障害福祉サービスが必要になる場合もあります。
つまり、
入居者の状態
↓
必要な支援を把握
↓
利用可能な制度を確認
↓
適切なサービスを組み合わせる
↓
必要な専門職がサービスを提供する
という順序で考えます。
重要なのは、売上を増やすためにサービスを追加するのではなく、入居者に必要なサービスを適正に提供した結果として、施設・関連事業全体の価値が形成されることです。
サービスの質と施設収益は両立できる
介護施設の利益改善というと、人員削減や利用料金の値上げをイメージするかもしれません。
しかし、それだけが経営改善ではありません。
同じ19床、同じ24時間、同じようなスタッフ配置であっても、入居者とサービスの組み合わせによって、提供できるケアの質と施設全体の収益性は変わります。
必要な人に必要なサービスを提供し、それに適した専門職を配置する。
限られた人材、時間、建物という資源を適切に組み合わせることができれば、サービス品質を維持・向上しながら、事業としての生産性を高められる可能性があります。
これは「サービスを減らして利益を出す」という発想とは異なります。
サービスの質と経営の持続可能性を同時に考えることが、共生型住宅型有料老人ホームの重要な経営テーマです。
「入居率経営」から「居室価値経営」へ
これまで住宅型有料老人ホームでは、
「19室をどう埋めるか」
という入居率中心の考え方が一般的でした。
しかし、満床になれば、それ以上入居者を増やすことはできません。
そこで次に必要になるのが、
「19室から、どれだけの価値を生み出せているか」
という視点です。
施設全体の月商だけを見るのではなく、
月商 ÷ 稼働居室数
によって「1室あたり総事業売上」を確認する。
そして、自施設と他の運営モデルに差があるなら、
入居者構成なのか
介護サービスなのか
訪問看護なのか
障害福祉なのか
人員配置なのか
時間の使い方なのか
請求・運営体制なのか
と、その原因を一つずつ検証していきます。
これが、満床をゴールとする「入居率経営」から、1室の事業価値まで考える「居室価値経営」への転換です。
共生型住宅型有料老人ホームは地域福祉の拠点になる
共生型住宅型有料老人ホームの価値は、収益性だけではありません。
地域の医療機関、訪問看護、訪問介護、リハビリ専門職、ケアマネジャー、相談支援専門員、行政などが連携し、一人の暮らしを支える拠点になることにも意味があります。
高齢者だから介護。
障害があるから障害福祉。
医療的ケアが必要だから医療。
そのように人を制度ごとに分けるのではなく、
「その人が地域で暮らし続けるためには何が必要なのか」
から考える。
共生型住宅型有料老人ホームは、制度の縦割りを超え、介護・医療・障害福祉を「暮らし」を中心としてつなぐ、新しい地域の住まいになり得ます。
まとめ|部屋を埋める経営から、1室の価値を考える経営へ
共生型住宅型有料老人ホームで重要なのは、単純に複数の制度を利用することではありません。
入居者の状態や必要性を把握し、介護・訪問看護・障害福祉などから必要なサービスを適正に組み合わせること。
その結果として、
入居者の暮らし
サービスの質
働く人の専門性
施設の持続可能な収益
を両立させていくことが重要です。
これからの住宅型有料老人ホーム経営では、「何室埋まっているか」だけではなく、
「1室から、どれだけの価値を生み出せているか」
という視点も重要になるでしょう。
満床を目指す経営から、居室価値を最大化する経営へ。
共生型住宅型有料老人ホームは、制度の縦割りを超える新しい住まいであると同時に、これからの介護施設経営そのものを考え直す一つの選択肢です。
※介護保険、医療保険、障害福祉等の制度利用・請求は、利用者個々の状態・必要性・適用要件等に基づき、法令・制度に従って適正に行うことを前提としています。